最高裁判所大法廷 昭和38年(オ)1081号 判決 1964年2月26日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第一点について。
論旨は、原判決には公職選挙法二〇四条の解釈適用を誤つた違法があると主張する。しかし、同条の選挙訴訟を提起しうる選挙人とは当該選挙区に所属する選挙人に限る趣旨であると解した原判決の判断は、正当である。けだし、右規定がいわゆる選挙訴訟の制度を認めた所以は、選挙が選挙区ごとに行われるものであることに鑑み、その選挙区の選挙に参加しうる権利を有する者にその結果の違法を主張する途を与え、もつて選挙に関する法規の適用の客観的適正を期している法意であると解するのが相当であるからであり、かつ右規定は、憲法四七条が両議院の議員の選挙に関し、選挙区その他選挙に関する事項を法律に委ねて、各選挙区を一個の単位として議員を選出せしめることにし、その選挙の実施、管理等の手続きは法律をもつて規定しうることにしていることに由来するものである。したがつて、原判決の右判断には所論のような違法はない。なお、所論憲法一五条(国会議員については同法四四条も)の普通選挙保障の規定が、所論のように選挙人が所属選挙区以外の他の選挙区の選挙の結果についてまで異議を主張しうる権利を保障しているものでないこというまでもない。それ故、所論はすべて独自の見解というの外なく、採用の限りでない。
同第二点について。
論旨は、第一点について説示した見解によつて公職選挙法二〇四条を解釈適用することは、憲法三二条に違反すると主張する。ところで、上告人の提起した本訴の趣旨は、上告人の所属選挙区以外の他の三選挙区の選挙の結果について異議を主張するものであつて、上告人自身の具体的権利義務に影響のある場合にその権利義務について争うものではない。そして、かかる具体的権利義務には直接関係のない事項については、特別の規定のない限り(裁判所法三条一項後段参照)、上告人に出訴の権利、いいかえれば裁判を受ける権利を認めなくとも憲法三二条に違反しないものであることは、当裁判所累次の判例(昭和二七年(マ)第二三号同年一〇月八日大法廷判決、民集六巻九号七八三頁、同年(マ)第一四八号同二八年四月一五日大法廷判決、民集七巻四号三〇五頁、同年(オ)第四四九号同三四年七月二〇日大法廷判決、民集一三巻八号一一〇三頁、同三〇年(オ)第六六五号同三一年二月一七日第二小法廷判決、民集一〇巻二号八六頁)の趣旨として判示するところである。それ故、所論違憲の主張も理由なく、採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 斉藤朔郎 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)